「初心忘るべからず」。
よく知られた言葉ですが、
ただ「最初の気持ちを忘れない」という意味ではないと、
最近になって思うようになりました。
能楽の世阿弥が残したこの言葉には、
三つの初心があるといわれます。
はじめて志した日の初心。
未熟だった頃の初心。
そして、熟練した後の初心。
初心は、過去に置いてくるものではなく、
その時々に生まれ続けるものなのだと。
和菓子づくりも同じです。
最初に小豆を炊いた日のことを覚えています。
火加減もわからず、鍋の前で不安になりながら、ただ必死に向き合っていました。
あのときは、うまくやろうとも、評価されようとも思っていなかった。
ただ、目の前の豆をどうにかしたい、それだけでした。
続けていくと、技術は積み重なります。
経験も増えます。
けれど同時に、慣れも生まれます。
慣れは悪いことではありません。
しかし、油断と隣り合わせです。
「これくらいでいいだろう」という小さな甘さは、ほんのわずかに味を変えます。
だからこそ、初心。
今日の小豆は、はじめて向き合うつもりで。
今日のお客さまは、はじめて迎えるつもりで。
今日の一日は、はじめて生きるつもりで。
それは、緊張し続けるという意味ではありません。
むしろ逆です。
何年続けていても、自分はまだ途中なのだと認めること。
まだ学ぶことがあると知ること。
それが、熟練の中の初心なのだと思います。
日曜日の朝。
明日からまた同じ仕事が始まる、
そう思う人もいるかもしれません。
けれど本当は、同じ日は一日もありません。
新しい月曜日。
新しい一歩。
初心を携えて。
今日も、
日日是好日。
