005 木挽町よしや「喫茶去」

「喫茶去(きっさこ)」。

直訳すれば、「お茶を飲んでいきなさい」。

禅の言葉として知られていますが、
その背景を知ると、とてもやさしい言葉だと感じます。

身分や立場、初対面かどうか、話の内容や結論。

そういったものをいったん脇に置いて、
まずは一服のお茶を、という姿勢。

答えを急がない。
評価もしない。
ただ、今ここで一息つく。

茶道においても、和菓子とお茶の時間は、何かを決めるための場ではありません。

正しさを競うわけでも、成果を出すわけでもない。

静かに味わい、静かに過ごすための時間です。

和菓子屋の仕事をしていると、
つい「うまくやろう」としてしまう瞬間があります。
もっと良い形を、もっと喜んでもらえるように、と。

それ自体は大切なことですが、知らず知らずのうちに、自分を追い込んでしまうこともあります。

そんなとき、「喫茶去」という言葉を思い出します。

今は考えなくていい。
今は比べなくていい。
まずは一息つこう。

あんこを炊く火を少し落とし、湯気の立ち方を眺めながら、自分の呼吸に気づく。

忙しい毎日の中で、立ち止まることは、怠けることではありません。

むしろ、
次に進むために必要な時間です。

日曜日の朝。
何もしなくてもいい時間。
何かを決めなくてもいい時間。

ただ、お茶を飲む。

それだけで、月曜日の景色が少し違って見えることもあります。

喫茶去。
まずは一服。

今日も、
日日是好日。

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